マゾッホ『毛皮を着たヴィーナス』 

毛皮を着たヴィーナス (河出文庫) 毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)
L・ザッヘル=マゾッホ (2004/06/04)
河出書房新社
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本書にいくらか類縁性のある小説として、谷崎潤一郎『痴人の愛』、有島武郎『或る女』、三島由紀夫『仮面の告白』、山田詠美『ひざまずいて足をお舐め』などが思い浮かぶ
日本におけるそれらの小説に比べて、『毛皮を着たヴィーナス』は、いま一つリアリズムの小説らしくはない
主人公とヒロインの二者関係しかほとんど描かれず、生活感がなく、ストーリーは直線的でふくらみがない
『毛皮を着たヴィーナス』は基本的に、「ツンデレ」小説だ
小説の中盤は、グダグダ
二人の「ツンデレ」関係が延々と描かれる
女がツンツンして、男がそれに跪く
しかし、ときどき、デレ期に入り、あなたを愛しているからこそいじめるのだというささやきが交わされる

技巧的でない、素朴な作りの小説だ
特徴は、思想性の高さにある
作中に『オデュッセイア』、プラトン、カント、ヘーゲル、ゲーテ、ゴーゴリ等の名前が登場している
この点で論じられるところは非常に多い
通俗的な恋愛物語はとにかく多い
しかし、恋愛関係を描写すれば、それで小説だといえるものなのか
『毛皮を着たヴィーナス』には、一般的な恋愛というものへの反省と、男女の愛とはそもそも何であるのかという考察が含まれている

マゾッホのいた当時のヨーロッパ社会ではどのような価値観が一般だったのか
それに対するマゾッホの批評がどのようなものであったのか、気になるところ
細かく見ていくと深読みできる内容が含まれるテキストだ
ヒロインは熱弁する

「自然は男と女の関係のなかに持続などないと弁えているのよ」
「女を宝物のように埋め込んでしまおうとするのは、男性のエゴイズムにすぎないのだわ」
「愛のなかに、持続を持ち込もうとする企ては、一つ残らず失敗に終ってきました」
「わがキリスト教世界が腐敗の極に瀕しているという事実を否定なさるおつもり?」

このあたりは、ちょっとフェミニストっぽい
永遠の愛というものがありうるのかどうか
夫婦関係は持続可能なのか
それは、「自然」をねじまげたものではないのか
ということも、ひとつのテーマになっている

また、ゲーテの「汝はすべからく、叩かれる鉄床となるか、それとも叩く鉄槌となるか」という言葉が紹介されている
平等はありえない
かなづちとなるか、かなどことなるか、男女の関係とはその二つに一つなのだということらしい
ここでの主人―奴隷という問題機制は、ヘーゲルの『精神現象学』『法哲学』などを、念頭においているのか
分かりませんけれども

主人公は主人(女)―奴隷(男)の関係を恋愛においてをつくろうとする
そして、奴隷制度の存在を羨ましがり、古代社会を肯定する
ギリシャでは、奴隷がOK
ギリシャの思想を持ってくることによる、キリスト教への批判もなされている

それと関連して、「自然」という言葉が作中に頻出する
ルソーの『不平等起源論』『社会契約論』などの知識がありそう
「契約」という言葉もキーワードである
敵対的な人間関係を、契約書を書き、法を作り出すことで仲裁し、主人―奴隷の関係を作り出す
自然状態→契約→社会状態
というルソー的なモデルがあるよう
しかし、私法のもとに締結された二人の関係が、「平等」の状態ではない
主人―奴隷の関係であることが問題提起的である

キリスト教は、自然の中に「敵対的」なものを持ち込んだ
「官能の世界を敵に回した精神の闘争」が「福音書」である
ヒロインはそのように訴える
〈官能、自然/精神〉
〈ギリシャ/キリスト教〉
という対比があり、前者を肯定しているようなのだ

主人公は被虐的である
道徳観念が強すぎることで、逆説的に倒錯を産みだしている、という設定があるよう
後日、SMの関係は崩れ、二人は別れる
そののち、女がよこした手紙も興味深い
男は「病気」であり、それを直す手伝いを自分はしてあげたのだと

権利、教養、労働の三つにおいて、男女がともに肩を並べたときしか、主人―奴隷という関係を脱せない
なので、今の社会では男女の平等な関係は無理だ
といった結論も、男により付されている

主人公の男性は、フェミニストであるように見える一瞬がある
しかし、総体として、男はとても自己中だ
男がMで、女性にSの役割をやらせるにしてもすべて、男が暗に行なわせたようではある
その点で、非難すべきところはあるだろう

サドの『悪徳の栄え』に比べれば、『毛皮を着たヴィーナス』はやや地味な印象を受ける
しかし、渋味ある思索性の高さがある
マゾッホは、現実社会で『毛皮を着たヴィーナス』の内容に近い、変なこともやったよう
恋人を自分の前で、別の男と姦通をさせる
新聞広告で、恋人の情人を募集する
娼婦の恰好をさせて、男を漁らせる
といったことも実践したらしい

少し、共感した
ぼくもアレをソレした経験がある
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[ 2007/08/11 15:23 ] magazinn55 [ 編集 ]
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(けがわをきたびぃーなす、また「毛皮のヴィーナス」) <選択ポイント>  マゾッホがマゾヒズム(M)の名称の元であることはかなり知られているようだ。  その代表作と言 ...
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