川上未映子『乳と卵』 

文学界 2007年 12月号 [雑誌]文学界 2007年 12月号 [雑誌]
(2007/11/07)
不明

商品詳細を見る

「文学界 2007年 12月号」掲載

2ちゃんでは、今のところ
芥川賞はこれで決まり
みたいな話の流れになってますね
「わたくし率イン歯ー、または世界」より読みやすく、親切な作品

タイトルは「乳と卵」
「わたくし率」よりずっとシンプル
今回のタイトルはほとんど、そっけない感じですね
作品の主題を直接的に表している

水商売の母と、成長期の娘
お母さんは、豊胸手術をしようとするのだけれど、娘はそれを嫌がる
二人の振舞い・状況・心理を描いていく

胸を大きくするとか化粧をするとか
そういう文化というのは、人間のみがなすことであって
人間にとってある「美」というもの
自分で自分を「飾る」というのは、常に対他的行為である
女性にとっての、化粧をするとか、着飾るという行為
それは、男性に対するものなのか
じゃあ、「美」というものは、独立したものではないのか
「美」とは、隷属的なものなのか
男性優位の形で、「美」というものが形成される
水商売をするからには、胸が大きい方が有利だと
女性の身体を変形すらさせる
それが、「豊胸手術」なのじゃないのか
そういうジェンダー的な問題へと触れている

そこまで踏み込んだ考察をして、シェンダーについて扱っているわけでもないようだけれど
やりすぎると、PC派みたいになって、うっとおしくなるし
適度に社会的
過度でなく政治的で、その点でも芥川賞を外していない

本作の批評をなすとしたら、樋口一葉の『たけくらべ』と埴谷雄高の『死霊』七章から補助線を引くこともできそう
川上さんの文体は、町田康やモブノリオの語りというより、一葉の話体を範にしているのでしょう
「わたくし率」は少々哲学じみていたので、その点が不明確だった
「わたくし率」は埴谷的
一方、『乳と卵』では、日常的な、等身大の視点で、物語が作られていて、その点『たけくらべ』に近いわけですね

昔の歌だけど「ふくらんでいく乳房が怖かった」という歌詞が、「cocco」の曲にあった
女の子が、自分の身体が発育していくことを恐れるわけですね
「乳と卵」では、水商売をしているお母さんの像というのは、ひょっとしたら「緑子」の未来の姿なのかもしれない
子供は子供であって、「人間」でない
女になっていくこと
社会によって、女にならされていくことへの恐怖
女の子の名前は「緑子」だけど、「たけくらべ」の「美登利」からとっているんでしょ
それで、初潮というテーマとかがかぶる

タイトルを「たけくらべ」と似たようなものにした方がいいんじゃないかな
「乳と卵」じゃ殺伐としすぎてるでしょとも思うけれども
まあ、前回の選評で、大分タイトルにはつっこまれてましたからね

「女にならされる」
「子供を産むことに意味があるのか」
「排卵における卵」って、なんなの?
この三つについては、埴谷の『死霊』七章ともテーマがかぶっている
実存的な問いですね
観念的なアイディアを点と線にしつつ、具体的な生活を綴っていく
バランスも良い

あちこちで、辞書・実用書からうつしてきたようなトリビアな知識が盛り込まれているけれども
「へえへえへえ」と言うかな?
それが書くとき、喋るときの癖、ということもあるのでしょうか
「辞書的な言葉」と「対他的な言葉」
二つの摩擦、ということも、念頭にあるのでしょうけれども
「ほんまのことはない」と
言葉の定義は循環していき、無現退行を起こすという奴ですね
語りはじめの語りとは、何なのかということ
その始点に「私」が宿らざるをえない

語り手は空気ですね
「わたくし率」より、爽やかで身軽
ずっといい
でも、これ、語り手は登場人物として必要あったかな
「一葉」+「大阪弁」という手法を使うとき、語り手をどう処理するか
難しい作業を丁寧にこなしていらっしゃると思うけれども
「である」と「です」が不統一なところもあったけれども
いわゆる「近代小説」ではない、異色な話体だし
近世文学と、横光利一『純粋小説論』やドストエフスキー『悪霊』
そこらへんにおける「第四人称」の問題と、関わることかもしれませんね

「男性」が登場していないがゆえに成功し、また、そこが「見えない場所」ともなっている作品
「現実的なもの」が、隠され、繕われている気がします
総合的な小説を書くのは難しいことなのでしょう
でもこれはこれでいいと思います
スポンサーサイト

初めまして!
以前、川上未映子さんのウェブ連載について書かれたときから覗かせていただいてます!
早速、乳と卵を読みました。
たけくらべが使われているという指摘、当方もそう感じました。
出し抜けに失礼ですが、きっと、

美登利→緑子、
大巻→巻子(吉原で働いている緑子の姉)
夏→語り手(樋口一葉の本名)

ではないでしょうか。
[ 2007/11/24 09:56 ] きゅん [ 編集 ]
立ち読みした記憶でテキトーに上記の記事を書いたので、きちんと名前のチェックを行わなかったのですが、その三人の由来はその通りなのでしょうね
私も教わりました
ありがとうございます
隅々まで細かな工夫がなされていて面白い小説ですね
[ 2007/11/25 21:02 ] 松平耕一 [ 編集 ]
南津です^^
こっちも面白そうですね。
読んでみよ~
[ 2007/11/25 22:20 ] なつ [ 編集 ]
>南津さん
ブログの方にもお越しいただきありがとうございます☆
シックで、いい作品だと思いますよー
[ 2007/11/26 15:45 ] 松平耕一 [ 編集 ]
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する
この記事のトラックバックURL
http://literaryspace.blog101.fc2.com/tb.php/228-8a173846

姉とその娘が大阪からやってきた。三十九歳の姉は豊胸手術を目論んでいる。姪は言葉を発しない。そして三人の不可思議な夏の三日間が過ぎてゆく。第138回芥川賞受賞作。娘の緑子を連れて豊胸手術のために大...
[2011/04/16 01:22] 粋な提案
プロフィール

松平耕一

Author:松平耕一
○twitter登録名:matudaira
○ツイッターまとめ:http://twilog.org/matudaira
○Facebook登録名:松平耕一

☆文芸空間社企画
◎批評放送
・批評放送は松平のプロデュースする動画配信企画です。ツイキャス http://twitcasting.tv/matudaira 、youtubeなどで配信されます
批評放送@USTREAM

○松平耕一・文芸空間社・批評放送へのカンパ振り込み先は
・三菱東京UFJ銀行の吉祥寺支店普通口座1896022 マツダイラ コウイチ 宛になります

管理者ページ

FC2カウンター
ツイッター@matudaira
カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
全記事(数)表示
全タイトルを表示
カテゴリー


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。