批評放送γ 白石昇さんインタビュー――自費出版で三千部売る方法 

――「言語藝人」の白石昇さんはタイに留学しているおり、書店で、ウドム・テーパーニットさんのエッセイ『ナンスー・ポー』(1996)と出会った。ウドムさんはタイの人気芸人である。平積みになって並んでいた『ナンスー・ポー』に魅せられた白石さんは、独力で途中まで翻訳。ウドムさんの事務所に印刷見本を持ち込んで、邦訳版の出版許可をもらえないか、かけあったという。白石さんは、原著におけるタイ語の不明箇所を、ウドムさんや事務所の方に、質問しに行く生活をタイで続ける。出版のあてがないのにもかかわらず、一年四か月をかけて『ナンスー・ポー』を邦訳した。日本語版タイトルを『エロ本』と名づけ、三千部をタイの印刷所で自費出版した。

・ウドム テーパーニット著、白石昇訳『エロ本』
エロ本エロ本
(2002/08/19)
ウドム テーパーニット白石 昇

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帰国後、日本の書店やアマゾンへの流通経路を作り、本書を営業して回った。白石さんの訳された『エロ本』についての、新聞社などによる書評はこちらで読める。

http://hp.vector.co.jp/authors/VA028485
/erohonyakaritenpomedia.html#erhn-press


原稿用紙換算で150枚ほど。ウドムさんの『ナンスー・ポー』は、タイでは30回以上も印刷された大ベストセラーである。タイ人ならだれでも知っている芸人さんであるウドムさんは、コメディアンとして、タイのテレビで活躍したのち、映画に主演したり、歌手をしたり、美術の制作をしたり、多方面にわたる活動を展開。日本で言うと、明石家さんまと松本人志とビートたけしを合わせたような人であるらしい。さんまの人情味あふれる丁寧な物腰、松本のブラックユーモア、たけしの前衛性、アート性、社会批評性とのそれぞれを、持ち合わせたような感じといったところか。
邦訳タイトルは『エロ本』だが、内容はまったくエロくない。ウドムさんのお笑いのネタにあたるものを、上品で紳士的なテイストで綴っている。タイでは当時、芸能人がヌード本がたくさん発売していたという。それらに対し、身体のヌードではなく、「頭の中のヌード本」を出したいと考えたウドムさんは、このようなタイトルに決めたという。本書を買う人を、からかうためのタイトルであるとのことだ。生まれて初めて本を買うようなタイ人が、次のようなやりとりを、お母さんと交わしたらいいなと考えたという。

「「お母さん、本を買うからお金をちょうだい」「何の本だい?」「エロ本」そしてお母さんに怒られる。」(
http://hp.vector.co.jp/authors/VA028485/h150107koko.png

ウドムさんのかわいらしいユーモアが伝わってくる。この『エロ本』というタイトルは、ほぼ原題の直訳だという。あるいは、ウドムさんのこの命名は、松本人志が自己の初のエッセイ集に、『遺書』(1994)というタイトルをつけたようなものと、反転した位置にあるものなのかもしれない。松本は日本において有名人であり、その強烈な個性のゆえに、本のタイトルにも、アクの強いものをつけるよう要請されたことだろう。松本の『遺書』というエッセイは、一九九四年に刊行され250万部を売り上げた。暗い時代であった。オウム真理教による松本サリン事件、村山内閣発足、中華航空機事故、愛知県いじめ自殺問題のクローズアップ等、世をにぎわす驚くべきトラブルの多く起こった、当時の日本人の心性とマッチしていた。
ウドムさんを知らないぼくが、『エロ本』というタイトルを聞くといささかぎょっとする。あるいは、タイでは日本より「エロ本」の存在がいくらか物珍しいものなのかなどと、国家的・文化的な背景を想像させられる。細かい事情を知ることはできないが、『エロ本』という題名は、ウドムさんのキャラクターがタイにおいて、社会的知名度があることによる、歴史的文脈が可能にするところもあったことだろう。『エロ本』というタイトルが必要とされた、タイの文化というものを、おぼろげに忍ばせる記述がそこかしこに潜んでいる。読んでいて見てとれるのは、全体としてノスタルジィを感じさせる、郷愁的で牧歌的な雰囲気だ。『エロ本』の原著『ナンス・ポー』は、松本の『遺書』とおおよそ同時代にタイで出版されたものだが、その内容において、極めて対照的である。『遺書』は暗いが、『ナンス・ポー』は明るい。やわらかで温かみがあるウドムさんの人情を感じさせる。田舎が広がっている。そのなかを、大衆消費社会が、徐々に進展していくのである。ウドムさんは次のようなことを上記のインタビューで言っている。

「タイの社会は禁止事項が多くて、王様、大物政治家、警察、軍、グラミーのスーパースターなどを冗談にすることは禁じられている」

いまだアメリカ型のネオリベ的な社会ではなく、封建的な遺制が残存してもいる。かような世間の空気の中で、エロというものを家庭的な雰囲気でユーモアにくるみ、暖かく抱擁することに、一つのアクチュアルな社会的背景があったのだろうか。白石さんに『エロ本』の出版背景について、おうかがいすることにした。

――白石さんの『エロ本』は、もとは自主制作本なんですよね?

白石昇さん もとはそうですね。本当は人に金を出させようと思ってたんですよ。向こうの、タイの出版社に金を出させようと。今から冷静に考えてみるとむちゃくちゃな話で、タイの出版社が自分たちが読めない日本語の本に金を出すわけないんですけどね(笑)。一応会議はしたらしいですけれども、やっぱり無理、ってことだったんでしょうね。しょうがないから自分で金出すしかないなと。それで人に金を借りて出して、その人に裏切られてと。

――こちらのページで、そのご苦労なさった経緯は事細かにお書きになっていらっしゃいますね。興味深く拝読いたしましたけれども。(http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20050618000038))
――ようは『エロ本』は自費出版ということになるわけですよね?

自費出版です。最終的に俺が金払ったんだから。

――白石さんは実際に自費出版して、三千部お売りになったわけですよね

三千部は売れてますね。第二刷も三千部刷りました。もう四千部いったのかな。この間五十冊、買い取りで納品してきました。

――初めてお作りになる本で、三千部刷るなんて度胸がございますよね

四日に一冊のペースで売れば三十年くらいで売り切れるなとか本気で思ってました。

――今回のインタビューのテーマは、自費出版本で三千部売るにはどうしたら可能なのかということを、白石さんにお伺いしたいと思ってました

ぶっちゃけ一番大きいのは製作側が泣くことですね。要するにバイトでもして金作って、全部売れたところでトントンになるような値段設定で出して、自分だったら絶対買うというクオリティと値段設定のものを売ると。それだと思いますね。それで駄目だったら駄目だろうと。そしたら三十年覚悟してたのにバンコクの方で火がついて品切れになっちゃって。でも冷静に考えたらそりゃ買うよなと。安いし。タイでは現在150バーツ(約450円)で売ってます。初版は120バーツだから、360円くらい。読売新聞が向こうで70バーツ。タイで一番発行部数の多い新聞が10バーツくらい。日本の本は一律、日本で買うより30%は割高なんですよ。そん中で120バーツで出したから、俺だったら絶対買うなと。普通なら読めない内容だし。そこが一番の要因だと思いますね。

――『エロ本』の邦訳版を、タイで買うかたが多いと

でも日本でも直販の場合は送料込みで800円。本体価格678円ですから、買いやすい値段ではありますね。アマゾンの場合は送料が一律340円、合わせて1000円超えちゃうかな。アマゾンと直販、同じくらいの数が出ています

――カラーですよね。この鮮やかな色のクオリティで、その値段はありえないですよね

泣きましたよ、ホントに。

――四色刷り、三千部をタイで刷ったとのお話ですが、日本円にして印刷費用はいくらぐらいだったのでしょうか?

いくらぐらいだったかな。五十万円は超えてないです。間違いなく。でも、日本に持って来るとなると、送料が一番高いような気がします。僕が取っているのは、3%、増刷分で4%の翻訳者著作権料だけです。DTPから自分でやって校正をボランティアの人たちにやってもらったから編集費用は0です。二刷目はパソコンと家賃だけ自分持ちで、仕事用の机と食事はウドムさんの事務所で出してもらってました

――三千部とは、普通、今の時代、なかなか本は売れないですよね

そうですね。ちょっとびっくりですね。初版のやつは日本でもっと売れると思ってて、ほとんど日本に持ってきたんですよ。そしたら日本よりタイの方が足りないということになって。日本に送った分を再度ハンドキャリーでタイに持ってきてもらうんですけど、日本に一回送ってすでに送料がかかった本をタイの値段で売るわけですから、一冊100円くらい赤字が出るんです。それでも書店さんから売りたいって言われるから200くらい日本から持って来ましたね。
それで、しょうがないからウドムさんと相談して、初版分が日本に何百冊か残っているけれども増刷しようと。せっかくだから訳文から全部作りなおそうということになって、カラーページも増やして、DTPもInDesignを借りて一から組み直しました

――最初は赤字が増えちゃう感じだったと

初版はトントンになっているのかな? 儲かってないとは思いますけれどもね。微妙なところですね

――ちなみに、アマゾンでは年に何冊くらい売れるのですか?

数十冊じゃないですか? 百とか行かないと思いますよ、たぶん。タイの方は桁が違いますけど。バンコクの紀伊国屋さんとか、結構発注してくれますね。この前も五十冊です。むこうは返本なしの買取ですからそのまま実売です。泰国紀伊国屋書店に限って言えば、発売された2002年の冬、発売されたばかりの『海辺のカフカ』や『わしズム』より売れてたと思います。増刷したときも200冊一気に平積みにしてもらえたし、新刊の『gu123』が出たときも、一気に200冊くらいレジ脇にバーッと縦に四冊重ねでガンガンガンと積んでもらえましたからね。うれしくて記念撮影しましたよ。

・ウドム テーパーニット著、白石昇訳『gu123』
gu123gu123
(2005/09/01)
ウドム テーパーニット白石 昇

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――個別の書店さんに直接白石さんがかけあって置いてもらっているのですか?

いやあの、タイだと限られているじゃないですか。タイの本で日本語訳だから。基本的には紀伊国屋さん、東京堂さん、泰文堂さんなんかの日系書店にファクスでリリースを出すだけですね。現地の書店でも買ってくれるところもあるけど、商売的に難しいみたいです。売るほうも困るだろうし。現在はほとんどバンコクの紀伊国屋さん中心ですね。
日本だと個別に回って書店の仕入れ担当の方に相談します。そうするしかないです。初版出してから実家の長崎にバイトしに帰ったんですけど大変でした。東京は同人誌なんかでも直で取ってくれるところいっぱいあったから楽だったけど。神保町のアジア文庫さんとか。あそこは何百も売ってくれましたし、月間ランキングで二位に入ったこともあります。年間で十七位かな。タコシェさんとか模索舎さんとかは確実に置いてくれるし、まだまだとってくれる書店もたくさんあると思いますよ。

――『エロ本』の日本における営業はどのような感じで始まったのでしょうか?

最初は長崎の紀伊国屋さんに行ったのかな。紀伊国屋さん、すごくよくしてくれて、「これいい本だと思うんですけど、このままじゃ売れないと思うんでマスコミ回ってください」って言われて。マスコミ行ったらマスコミがほとんど扱ってくれるんですよ。パブリシティがあるんですよね、たぶん。タイの有名タレントというか、有名アーティストのエッセイを翻訳した事にニュースバリューがあるってことで長崎新聞は書評を書いてくれたし、西日本新聞なんかインタビューまで掲載してくれました。そしたら今度はその記事持って書店に行くんです。こういう本なんです、できれば置いて欲しいんですけど、って。説明するのあまり得意じゃないんで。

――書評が先行している自費出版本なわけですね。普通の商業出版からすると、極めて異例のやり方ですよね

書店さんが入れてくれるって決めた時点で書棚には並びますからね。並べる気がないなら最初からうんと言わないし。後から知ったんですけど、普通は取次がダンボールをボンと書店に送ってくるんですね。その箱の中にどんな本が入っているか分かんないです、書店さんは。で、それを店に並べる並べないは書店の裁量なんですよ。返本してもいいんだから。だから、置いてみて動かなかったら棚から外されることもありますよ。エロ本も外されたことあったし。新聞に掲載された記事のコピー持って行ったら平積みに復活しましたけど。復活のお札ですね報道実績は。

――出版社を出たのちに、本が店頭に並ぶまでに、取次と書店で二段階のジャッジが入ると

自費出版で問題になるのは、本屋に並んでいるとかいないとか、そういう契約の問題ですよね。取次から書店に本を送っちゃったら棚に並ばなくても、版元として義務を果たしたことにはなりますし。並ぶ並ばないは本屋さんのあれだから。
エロ本はまだ、東京では売れる余地があると思います。本屋が密集してるから営業もやりやすいし。文学フリマのときなんか、結局、終わりのオフ会も合わせて四十冊、五十冊くらい売って帰ったし、横浜トリエンナーレの売店でも三百冊近く売れたし。

――文学フリマでそれだけ本を売るのは、出店者のなかでも、相当上位の方なんじゃないですか?
当日以前に『エロ本』を売ることを、何らかの手段で告知したり、営業をなさったりしたのでしょうか?

自分のメルマガとサイトくらいですね。三回目か四回目の文学フリマでも八冊売れましたし、『gu123』も1、2冊売れましたよ。知ってるサークルさんに間借りして、隅のちっちゃいスペースで、ウドムさんの作ったぬいぐるみを振り回して遊んでいただけなんですけどね。でも、東京は同じようなことやってるひといっぱいいるでしょ? タコシェさんに何冊も積んでる『PLANETS』もそうだし、『本の雑誌』とかももともとそうだし、『STUDIO VOICE』も確かそうだったんじゃないかな。

――紀伊国屋で50冊、買い取ってもらえるって、すごいですよね

現在は実質泰国紀伊国屋さんとあと、数店舗でしか売ってないですけど。でも、売り上げの結果が出たからでしょうね。最初が十冊くらいで、置いといてくださいと。で、追加注文が三十冊くらい入ってそれが百になって、五百欲しいって言われたときには、もうタイにはなかった。増刷したときは一気に二百取ってもらって、その後は何度か百単位でポンポンポンと取ってくれて、それがまだほそぼそと続いていると。安くて、あとはクオリティでしょうね。金をかけている割に安い。ウドムさんも、自分の本の日本語訳に関してはあんまりお金儲けとかどうのこうのとか考えてませんからね。舞台の収入だけで億万長者だし。全部売れてほしいとは思ってるでしょうけど、日本人に自分の書いた本を読んでもらいたいって気持ちが第一でしょう。だから、日本語版『gu123』の表紙とか、装丁とか細かいところはウドムさんが自分でやったりしてますよ。

――値段の安さが重要だったと。白石さんのように、タイで作るとか、そういったことはなかなか他に転用できないやり方ですよね

でも、ダイソーなんかは中国で作ってるでしょ? 二色刷りのやつ。ISBN取ってなくて取次も通していないし。で、あの値段で夏目漱石とか芥川龍之介とか読めるんですよ。青空文庫のデータ持ってきて作ってるみたいですね。だから百円で売れる。あれのミステリ書いてた人から話聞いたんですよ、何十万円かもらって、最初に何十万部も刷るらしいんですよ。それで増刷かかったら印税が出るシステムみたいです。初版八十万部とかじゃないですかね。それで全国のダイソーに流してるんだから面白いやり方だと思いますよ。

――それで、百円ショップで過去の名作やマニュアル本を売るという、めちゃくちゃな荒業が可能になっているわけですね。超格安で驚きました。でも、一個人がやるのは難しくないですか?

見積依頼さえ書ければ可能ですよ。何ページの本を、何冊、ここにカラーを入れて、こういう体裁にして、さて、あんたのとこいくらで刷る? って。それ書いてデータ入稿すれば印刷物はできるわけですから、あとは現物をどこでどうやって売るかという問題ですよね。個人でできないことはないと思います。

――白石さんの本作りは『エロ本』が初めてだったわけですよね

そう。とりあえずテキストだけ作って、ソフト買う金もないから、友達のパソコンのIllustrator借りて、ちょこちょこちまちま作っていきました。一ページ一ファイルで百六十ページ以上。増刷分からInDesign借りて作ったんですけど楽で楽で。初版はなんであんなに苦労したんだろうと。Illustratorで読み物はもう二度とやりませんね。InDesignだったらPDFで出力できるから、PDFそのままサーバーに上げてダウンロードできるようにしたら、それでもう電子出版じゃないですか。きれいに作れるし、InDesignはいいですよ。本の形になるワープロみたいで非常に楽。あのソフトなら十万は安いと思いますよ

――『エロ本』の成功の秘訣は、安い値段と高いクオリティだったと。これを出されるにあたって、いろいろなご苦労をなさったわけですよね

まあでもパトロンに騙されて在庫取り返すためにタイまで飛行機代使って行って赤字が増えたりしても、その結果ネタとして面白ければまあいいかなと。そう思うようにしてます日々してます今でもしてます。ぶっちゃけ五年以上経った今でも時折思い出してむかついたりもしますけど。

――タイに留学でいらっしゃって、本屋に平積みに並んでいたウドムさんの本を、「これだ」と思われたと

やっぱりあれですね。ウドムさんの本だけが「日本語に翻訳してくれよお」ってお願いしてたような気がしましたね。ていうか、表紙の見た目からして挑戦的でしたね。パッケージングの問題ですよ。本の中身、分かんないんですから。書物として総合的に読者を引っ張る力があるんでしょうね。ずーっと平積みで何年も売れ続けてましたから。あれ、十何年前の仕事でしょう。92年でしたっけ? 読者にそれだけ支持され続けるんだから書物としてそれだけの力があるんでしょう。

――確かに、コンテンツにしろ外装にしろ、強い魅力を放ってますよね。翻って、白石さんご自身の話もお伺いしたいですけれども、大きな範囲から見て、翻訳を選ぶというのは、どういった戦略に基づいていたのですか?
もともとは、小説をお書きになっていたわけですよね。日大文芸賞を受賞なさっていらっしゃる(白石さんの小説はこちらで読めます。http://www.geocities.jp/shiraishi_noboru/


まあ、他にもいろいろ書いてますけど、小説というか短篇ですよね。短篇はある程度やったんで、しばらくはいいかなと。そのあとで小説書いたんですよ。長いの。何年も前に書きあがってるんですけど、いまだに自分のメルマガで連載してます。(http://www.mag2.com/m/0000012912.htm
自分がやりたい日本語表現を新しい形式とか、やり方でやるには、翻訳をやる必要があったからタイに行ったし、翻訳やるならちゃんと残したかったんで本という形にしただけです。。

――他にもいろいろ、やっていらっしゃる

あとはおうたを歌ってますね。三十二歳になってからギター買ったんで。三十八歳にしてストリートデビューですよ。代々木公園の路上で歌ったりしてます。

――自分の小説を自費出版なさることはお考えにならなかったのです

営業力のない版元から出した無名の著者の小説なんて商売になりません。だからできるだけ腐らないものを書いて、商売になるようなタイミングが来たら出してもいいと思ってますけど。翻訳よりもそっちの方を読みたいというお客様もいらっしゃるんですが、商売になんないです。

――商売になるならないのジャッジは、どのあたりにあるのでしょうかね

売る立場で考えたら売りにくいもん。パブリシティがないから。簡単なことですよ。本屋に行って無名の人の短篇集が置いてあったと。それなら、なんかウリがないとだめでしょう。帯に誰が書くか書かないかで、本が出るか出ないかという時代ですよ。自分の小説を自分の金で出して売るとなるとぜんぜん違う話になりますね。

――サイトに載せていらっしゃるものは10年前の作品ということで、その時点で表現したいことは表現できたということですか

あのあと短篇、何やったかな……。いくつもあるんですよ、公開してないのが。金もらってないのは自分のサイトでは公開しないんで。短いものをある程度やった後に長いやつ、小説をやって、で、翻訳に入ったんです。次にやる小説はもっとハードル高いから、しばらくはやらないですね。お話は結構いっぱい、それこそ軽く本が3、4冊できるぐらい書いてます。商売になるようだったら出すんじゃないですかね。
でも今やってるのはいわゆる私小説に近いのかな。うまくいけば今年中に出ると思いますけど。今っていうか書き始めてからもう三年以上ですね。書き上げてから編集さんと、もう二年ぐらいずっとキャッチボールしてる状態です。

――出版関係の方に話をうかがっていると、商業出版は厳しいということですが

いや、商業出版って言葉の意味はよくわかんないけど、今は自由でしょう。だって、アマゾンで売れるんだもん誰だって。アマゾンで売って千人支持者がいて、その千人が時間決めて同時刻に注文出せば、一気にランキング一位獲れますよ。アマゾンで一位取ったって実績があれば書店さんも置くの嫌とは言わないでしょうから、ぱっと売り込んでいっても取ってくれるんじゃないですか? で、それで売れたらまたさらに部数伸びるし。

――自費出版をなすにあたって、ためになる話をたくさんおうかがいすることができました。本日は大変ありがとうございました
――自費出版本を売るためには何が必要か。パブリシティとパッケージング、そして値段の安さ。白石さんに、インタビューをすることで、この三つの重要性を知ることができた。

――『エロ本』は、お笑いのネタ本のようなものでありながら、ひねりが効いていて、論理的な思索がありもする。そして、聖と俗を転倒させるようなユーモアに満ちている。ケダモノ野郎、と他人を罵るように見せかけて、自分をもしもケダモノだったらと推定し、むしろケダモノこそが素晴らしいものだと裏返しにして考え、自分がケダモノになっちゃうみたいな。
本書の中には、タイの国勢やエートスの一部をうかがい知ることができる。タイでは、どんな商品が出回っているのか、どんな食事をしていてどんな文化が流行っているのか、家族愛や恋愛がどのようであるのか、どの程度ネオリベ的なものが侵食していて、どの程度タイ特有の宗教性が残っているのか、ユーモアというものがどのような局面で必要とされているのか。それらの国情の一部分を垣間見せつつ、楽しくタイ人の息遣いを伝えている。タイで生まれ育った人たちに共有されている知識のバックボーンや、エトス、無意識的な文化性を持っていないと、理解しにくいと思われるウドムさんのユーモアを、白石さんは、苦労しながら翻訳した。本書は宗教や民主化のあり方について、タイ文化の現在について、知るための資料ともなりうる。東南アジアにおけるカルチュラルスタディーズに役立ちそうな情報が豊富である。私としては、『エロ本』を比較文化的に考察した本格的な批評書や研究書が読みたいと思うくらいだ。
この『エロ本』に内在するパブリシティが、新聞等のジャーナリズムで高く評価された所以だろう。そのパブリシティが、マスコミで評価され→書店で売れ→商業出版化される、というルートを可能にした。また、観光旅行者の心をつかみそうな、造本でもある。タイに興味がある、タイへの旅を望む日本人は、かなりの数がいることだろう。そのような層の人々を魅了する本のパッケージングと、ウドムさんの暖かなセンスが、やわらかに融合している。
しかし、白石さんが本書を日本で流通させるのも大変だった。長崎の本屋に行ったが、本屋になかなか置いてもらえず、新聞社に行くよう促された。新聞社で記事を書いてもらい、それを手に本屋へ。文学フリマへ出店。そこまでやらなきゃ本というものは売れないものだなと思わせられるところもある
白石さんの体感的、行動的に文学を実践するやり方には、頭が下がる。白石さんはWeb有名人でもある。白石さんのWeb利用のやり方も、自費出版をしようとする作家には、おおいに見習うべきところがあろう。白石さんはサイト運営を十年以上も続けてきている。2008年6月現在、ブログ、「白石昇日刊藝道馬鹿一代。」(http://d.hatena.ne.jp/whitestoner/)のページビュー数は480000強、ポッドキャストのリスナー数は1000人強、メルマガの読者数は350強であり、それぞれ大変なものである。ポッドキャストには、自己の歌の弾き語りも流し、代々木公園で路上ライブもする。バイタリティあふれる行動をなす白石さんは、全身をつかった総合的な表現活動によりファンの数を増やしている。2ちゃんねるの翻訳板や創作系のページなどでも有名だ。Web上での白石さんの活動の総体は、『エロ本』の営業へともリンクしている。食うや食わずの生活をしつつ、日本で少々のお金を稼ぎ、タイで生活をしたりもする。まさに領域横断的な生だ。亡命者的であり、移民的である。「文学と政治」の一致した、移民としてのマルチチュードの姿勢が、白石さんにはある。実感に基づく体験を、言語における藝として魅せていく白石さんの活動には学ぶところが多い。


白石昇 69年生。言語藝人。第十二回日大文芸賞受賞。白石昇さんの略年譜はホームページ(http://www.geocities.jp/shiraishi_noboru/)で読める
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