「鷹」は1953年に『群像』に発表された
石川淳の小説。
石川はこのとき、54歳である。
幻想的な小説である。
主人公である「国助」の一人称の語りで描かれる。
国助はたばこの専売公社につとめ、たばこの研究を仕事にしていた。
万人の幸福のためになるたばこを作ろうという思想を国助は抱いていた。
しかし、「万人の幸福のため」という思想は危険思想であるとされ、レッドパージに会い、国助は専売公社をクビになる。
職を失った国助は、「国際的たばこ密造団」の運送の仕事に関わり、その謎の組織の一端を知る。
国助の過ちからその組織は摘発され、警察の検挙にあう。
国助自身も逮捕され投獄されるが、謎の少女に救出される、というところでこの物語は終わっている。
ファンタジックなことが次々と起こる少説だ。
幻想性の強さは、
石川淳の作品の特徴でもある。
しかし、暗喩の連続でできており、比喩をしているものが何なのか解き明かせば、論理的に明解な小説である。
左翼運動をフィクショナルに描いた少説だ。
運動を行う地下組織のあり方に暗示を受けて、それを仮託したものとして、「国際的たばこ密造団」といった、虚構の団体を作り出していている。
国を助けると書いて、「国助」という名の主人公は、「たばこ」の学者であるという。
その「国際的たばこ密造団」が作るたばこの名は「ピース」。
しかし、普通の「ピース」とは全く違い、普通の「ピース」よりはるかにおいしいのだという。
「国際的たばこ密造団」の「ピース」は「明日のピース」であり、そうでない、普通のピースは「今日のピース」である。
「明日のピース」は「明日語」で「ピース」と名称を打たれている。
この、とてもおいしい「明日のピース」は、万人の幸福をもたらしうるはずだ。
しかし、「明日のピース」は専売公社にとっての、「今日の秩序」にとっての敵でもある。
そのため、「明日のピース」の製造は、犯罪として摘発されることになってしまった。
「国際的たばこ密造団」は普通の言語ではない、「今日ありうべからざることば」である「明日語」を使う。
この「国際的たばこ密造団」で、国助は新聞を見つける。
その新聞も、「明日語」で書かれていた。
そこには、明日起こることが記されている。
国助はこの不思議な新聞に慨嘆する。
「明日のことばを解し明日の事件を知っているというのは、今日の秩序にとって、あきらかに治安を破壊するものである。思想犯。おもえば、ことばは思想であった。そして、そのことばをもって書かれた昨夜の記事はあやまたず今日の事実となって現前している。これは歴史の必然というものだろう。」
この新聞は、人間が記事を書いているのではない。
あたかも魔法のような力により、活字が自動的に動き、文章を組み上げるのである。
ロゴスというもの、言葉というものが自己展開していく様子を、可視化して比喩している。
ロゴスの自己展開とは、ヘーゲル哲学の影響を受けた、マルクス主義に含まれる思想だ。
ある地下組織が存在する。
それは「未来のこと」を知り、「真理」を保有している。
そして、現秩序に弾圧されている。
このような物語構成には危険もあるだろう。
ぼくらは「明日語」を知っているが、君達はそれを知らない。
君達も、ぼくらと一緒に運動したまえ。
そんなことをいう団体がいたら、社会にとってはそれなりに迷惑だ。
日本の左翼運動史における大問題でもある。
ドストエフスキー『悪霊』や埴谷雄高『死霊』は、地下組織の運動に潜む問題点を扱った思想小説だ。
この「鷹」という小説の発想には、見誤ってはいけない難題も含まれている。
しかし、ドストエフスキーや埴谷雄高を読む前に、この、「鷹」という小説を味わっておいてもよいかもしれない。
ドキドキする。
反秩序の運動を行う地下組織というものの持つロマンに浸れる。
そして、「明日語」の自己運動ということは、ネットの世界で生じはじめているかもしれないのだ。

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しかし、「万人の幸福のため」という思想は危険思想であるとされ、レッドパージに会い、国助は専売公社をクビになる。
職を失った国助は、「国際的たばこ密造団」の運送の仕事に関わり、その謎の組織の一端を知る。
国助の過ちからその組織は摘発され、警察の検挙にあう。
国助自身も逮捕され投獄されるが、謎の少女に救出される、というところでこの物語は終わっている。
ファンタジックなことが次々と起こる少説だ。
幻想性の強さは、
石川淳の作品の特徴でもある。
しかし、暗喩の連続でできており、比喩をしているものが何なのか解き明かせば、論理的に明解な小説である。
左翼運動をフィクショナルに描いた少説だ。
運動を行う地下組織のあり方に暗示を受けて、それを仮託したものとして、「国際的たばこ密造団」といった、虚構の団体を作り出していている。
国を助けると書いて、「国助」という名の主人公は、「たばこ」の学者であるという。
その「国際的たばこ密造団」が作るたばこの名は「ピース」。
しかし、普通の「ピース」とは全く違い、普通の「ピース」よりはるかにおいしいのだという。
「国際的たばこ密造団」の「ピース」は「明日のピース」であり、そうでない、普通のピースは「今日のピース」である。
「明日のピース」は「明日語」で「ピース」と名称を打たれている。
この、とてもおいしい「明日のピース」は、万人の幸福をもたらしうるはずだ。
しかし、「明日のピース」は専売公社にとっての、「今日の秩序」にとっての敵でもある。
そのため、「明日のピース」の製造は、犯罪として摘発されることになってしまった。
「国際的たばこ密造団」は普通の言語ではない、「今日ありうべからざることば」である「明日語」を使う。
この「国際的たばこ密造団」で、国助は新聞を見つける。
その新聞も、「明日語」で書かれていた。
そこには、明日起こることが記されている。
国助はこの不思議な新聞に慨嘆する。
「明日のことばを解し明日の事件を知っているというのは、今日の秩序にとって、あきらかに治安を破壊するものである。思想犯。おもえば、ことばは思想であった。そして、そのことばをもって書かれた昨夜の記事はあやまたず今日の事実となって現前している。これは歴史の必然というものだろう。」
この新聞は、人間が記事を書いているのではない。
あたかも魔法のような力により、活字が自動的に動き、文章を組み上げるのである。
ロゴスというもの、言葉というものが自己展開していく様子を、可視化して比喩している。
ロゴスの自己展開とは、ヘーゲル哲学の影響を受けた、マルクス主義に含まれる思想だ。
ある地下組織が存在する。
それは「未来のこと」を知り、「真理」を保有している。
そして、現秩序に弾圧されている。
このような物語構成には危険もあるだろう。
ぼくらは「明日語」を知っているが、君達はそれを知らない。
君達も、ぼくらと一緒に運動したまえ。
そんなことをいう団体がいたら、社会にとってはそれなりに迷惑だ。
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しかし、ドストエフスキーや埴谷雄高を読む前に、この、「鷹」という小説を味わっておいてもよいかもしれない。
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反秩序の運動を行う地下組織というものの持つロマンに浸れる。
そして、「明日語」の自己運動ということは、ネットの世界で生じはじめているかもしれないのだ。

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